わかりやすい!歯髄炎とその治療法

歯髄炎の似ている3処置「削ってからお薬を詰める」

国家試験で問われる歯髄炎の処置でややこしいものが3つあります。

  1. 歯髄鎮静消炎療法
  2. 間接覆髄法
  3. 暫間的間接覆髄法(IPC法)

これらはいずれも「削ってからお薬を詰める」という共通点をもっていますが、それぞれやろうとしていること=目的が違ってきます。今回はこれらをシンプルにまとめて全体像を把握することを試みたいと思います。

1.歯髄鎮静消炎療法

自発痛があるときに、とりあえず、落ち着かせる目的で薬をつめる。

 

2.間接覆髄法

全部削ったら、壁が薄くなってしまったので薬で壁を厚くする。(自発痛が無い時のみ!)

3.暫間的間接覆髄法(IPC法)

全部削ったら露髄する状態で、一度薬で壁を厚くしてから、感染歯質を全部削る。(自発痛が無い時のみ!)治療期間が3ヶ月ぐらいかかります。

 

 

 

 

1.歯髄鎮静消炎療法

自発痛があるときに、とりあえず、落ち着かせる目的で薬をつめる方法です。

「酸化亜鉛ユージノール」や「フェノールカンフル」は歯髄炎のリトマス紙のような薬です。

可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎を見分けることができる、唯一の薬だからです。例えば、リトマス紙は酸性とアルカリ性を判断できます。また、う蝕検知液は、その歯質が感染しているかどうかを識別することができます。同じように、酸化亜鉛ユージノールは、痛みのあるその歯髄が、「可逆性(保存可能)か不可逆(抜髄)か」を、識別することができる薬液です。

酸化亜鉛ユージノールを窩底に塗ってみて、

歯髄の痛みが治まれば

「可逆性歯髄炎(=一部性単純性歯髄炎)」「間接覆髄法」を行う

痛みがおさまらなければ

「不可逆性歯髄炎(=全部性歯髄炎)」「麻酔抜髄法」を行う という風に、治療内容を決定することができます。

歯髄鎮静消炎療法

 

2.間接覆髄法

似ている処置で間違いやすいのが、この間接覆髄法です。どちらも「軟化象牙質の除去」「窩洞形成」してから行う処置ですが、歯髄鎮静消炎療法とは、明確に違うものです。

間接覆髄法は、感染象牙質除去後の処置であるとともに、基本的に歯髄に自発痛があるときには行えない処置です(また、歯髄鎮静消炎療法がうまく効かないときには行えません)。

問題文中で「自発痛」がある場合は、行えません。「一過性の冷水痛」や「痛みがない」「インピーダンス測定検査では30kΩ?(値は私見です。ただ、20 kΩ程度だと、一回では終わらずに2回治療の待機的診断として問題を作ろうと試験委員は考えるかもしれません。)」「感染(軟化)象牙質を除去した」などの表現の時に行うことができます。

歯髄鎮静消炎療法の目的

  • 痛みの除去

  • 炎症の消退

  • 可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎の診断

間接覆髄法の目的

  • 菲薄化した健康象牙質の保護

  • 歯髄側への修復象牙質(第3象牙質)の形成

間接覆髄法で使用する薬も歯髄鎮静消炎療法とは違います。「水酸化カルシウム製剤」、「酸化亜鉛ユージノールセメント」などを使用し、第3象牙質の形成を促します。間接覆髄法を行うときには、歯髄は「保存できる」ので、インレーやCRによって最終修復を行います。酸化亜鉛ユージノールセメントは第3象牙質の形成能は水酸化カルシウムに比べて低いが、仮封にも使えます。

 

 

 

3.暫間的間接覆髄法(IPC法)

歯髄鎮静消炎療法や間接覆髄法に似ていて大変間違いやすいのが、暫間的間接覆髄法(IPC法)です。暫間的間接覆髄法(IPC法)の特徴は、軟化象牙質を残したままにすることです。

前の2つは、軟化象牙質を全て除去した後の処置でした。IPC法では、軟化象牙質を残したまま、再石灰化を促すお薬を塗って、1度目の治療を終えます。(全ての軟化象牙質を除去してしまうと露髄する可能性があるので、抜髄したくない一心で、第三象牙質が十分できてくれることと炎症がなくなることを祈ります。)

問題文中で「自発痛」がある場合は、行えません。状況としては、「一過性の冷水痛」や「痛みがない」「露髄していないが、不注意に切削すると露髄する可能性のある深在性(深い)齲蝕がある」などの表現で示されます。また、術中の状態としては、「軟化象牙質除去中」という表現がよく使われます。また、「罹患歯質を可及的に除去した(感染象牙質を一部だけ除去したけど、まだ残っているという意味です。)」「軟化した歯質がなお残存している」などの表現も時使われます。

3ヶ月後、再度、開けてみて十分に第三象牙質ができていることをX線で確認できたら、全ての軟化象牙質を除去し、初めて覆髄や裏層、CR充填などの最終的な処置を行うことができます。

間接覆髄法は1回の処置で終了するのに対して、IPC法では、軟化象牙質を残したまま覆髄して、3カ月以上待って再度処置(リエントリー)を行うところが大きく違う点です。

暫間的間接覆髄法で使用できる薬剤は、水酸化カルシウム製剤、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントです。

処置の効果をみるために、すぐに次の処置を行わない、待機的診断を行う点では、歯髄鎮痛消炎療法と似ています。

 

 

 

 

国家試験的な薬のまとめ

臨床現場とは異なるかもしれませんが、教科書と過去の国家試験を照らしあわせた処置と薬の組み合わせは以下のとおりです。

1.歯髄鎮静消炎療法

  • 酸化亜鉛ユージノール製剤
  • フェノールカンフル

2.間接覆髄法

  • 水酸化カルシウム製剤
  • 酸化亜鉛ユージノール

3.暫間的間接覆髄法(IPC法)

  • 水酸化カルシウム製剤
  • タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント

4.直接覆髄法

  • 水酸化カルシウム製剤
  • MTAセメント

 

 

 

 

 

演習問題

それではこれまで学んだことを使って以下の 6問を解いてみましょう。

写真は以下のものを共通で使います。

 

 

1

45歳の男性。下顎左側第一小臼歯の一過性の冷水痛を主訴として来院した。軟化象牙質を除去した。初診時の口腔内写真とX線写真とを別に示す。次に使用するのはどれか。1つ選べ。

  1. MTAセメント
  2. パラホルムセメント
  3. 酸化亜鉛ユージノールセメント
  4. レジン添加型グラスアイオノマーセメント
  5. タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント

【思考回路】

  • 齲窩は歯髄に近接
  • 一過性の冷水痛:生活歯、歯髄充血?
  • 軟化象牙質は全部除去できた
  • 間接覆髄法→酸化亜鉛ユージノール(あるいは、水酸化カルシウムセメント)

正答 3

 

2

45歳の男性。下顎左側第一小臼歯の間欠性の自発痛を主訴として来院した。患歯は食片が圧入した際に痛みが強くなるという。外層部のう蝕を可及的に除去後、窩底部のう蝕は残したままセメントを填塞し、経過観察することとした。初診時の口腔内写真とX線写真とを別に示す。次に使用するのはどれか。1つ選べ。

  1. MTAセメント
  2. パラホルムセメント
  3. 酸化亜鉛ユージノールセメント
  4. レジン添加型グラスアイオノマーセメント
  5. タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント

【思考回路】

  • 齲窩は歯髄に近接
  • 間欠性の自発痛:単純性(漿液性)歯髄炎、一部性か全部性かわからない。
  • 軟化象牙質を痛みのため、全部除去できず
  • 麻酔が使えない緊急時の歯髄鎮静消炎療法→酸化亜鉛ユージノール

正答 3

 

3

45歳の男性。下顎左側第一小臼歯の間欠性の自発痛を主訴として来院した。2週間前に、窩底部のう蝕は残したまま酸化亜鉛ユージノールセメントを填塞し、経過観察していた。初診時の口腔内写真とX線写真とを別に示す。次に行うのはどれか。1つ選べ。

  1. 抜髄
  2. 間接覆髄法
  3. 暫間的間接覆髄法
  4. アペキシフィケーション
  5. 感染根管処置

 

【思考回路】

  • 齲窩は歯髄に近接
  • 間欠性の自発痛:単純性歯髄炎
  • 歯髄鎮静消炎療法行ったが奏功せず=全部性単純性歯髄炎→抜髄

正答 1

 

 

問4

45歳の男性。2週間前に、下顎左側第一小臼歯へ窩底部のう蝕は残したまま酸化亜鉛ユージノールセメントを填塞し、経過観察していた。疼痛は消退したという。初診時の口腔内写真とX線写真とを別に示す。次に行うのはどれか。1つ選べ。

  1. 抜髄
  2. 間接覆髄法
  3. 暫間的間接覆髄法
  4. アペキシフィケーション
  5. 感染根管処置

 

【思考回路】

  • 齲窩は歯髄に近接
  • 歯髄鎮静消炎療法行って、歯髄の消炎に成功した。
  • 窩底が歯髄に近接しているので、間接覆髄法

正答 2

 

 

問5

45歳の男性。下顎左側第一小臼歯の間欠性の自発痛があったが、現在は痛みが消退しているという。軟化象牙質を可及的に除去後、窩底部のう蝕は残したままセメントを填塞することとした。初診時の口腔内写真とX線写真とを別に示す。

使用するのはどれか。1つ選べ。

  1. MTAセメント
  2. パラホルムセメント
  3. 酸化亜鉛ユージノールセメント
  4. レジン添加型グラスアイオノマーセメント
  5. タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント

【思考回路】

  • 齲窩は歯髄に近接
  • 軟化象牙質を除去すると露髄の恐れのため全部除去できず
  • 暫間的間接覆髄法
  • 3ヶ月後に再度、修復象牙質の形成を確認する
  • 十分であれば、軟化象牙質を全部除去後、間接覆髄法。

正答 5(水酸化カルシウム製剤でも可)

 

 

問6

45歳の男性。下顎左側第一小臼歯の間欠性の自発痛があったが現在は消退しているという。窩洞形成中に点状の露髄を認めた。そのままセメントを填塞し、経過観察することとした。初診時の口腔内写真とX線写真とを別に示す。

使用するのはどれか。1つ選べ。

  1. MTAセメント
  2. パラホルムセメント
  3. 酸化亜鉛ユージノールセメント
  4. レジン添加型グラスアイオノマーセメント
  5. タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント

【思考回路】

  • 齲窩は歯髄に近接
  • 軟化象牙質は全部除去できた(窩洞形成の段階に入っているため)
  • 窩洞形成時の偶発露髄→直接覆髄法

正答 1(水酸化カルシウム製剤でも可)

 

 

 

【臨床問題を解く上で重要なポイント】 「一過性の冷水痛」or「間欠性の自発痛」

問題の主文で患者の「痛みがあるのか、無いのか」=「歯髄鎮静消炎療法なのか、間接覆髄法なのか」は、上記の単語によって判断されることが多いです。

「一過性の冷水痛」や「間欠性の冷水痛」や「痛みが消退した」とあれば、歯髄はまだ健康な状態で、歯髄充血とかそんななので、「自発痛がない」と判断でき、間接覆髄法が行えます。つまり、お薬詰めて、最終処置ができます。死ぬまで症状無ければそのままで過ごせます。

 

一方、「間欠性の自発痛」とあれば、急性漿液性歯髄炎が疑われ、「自発痛があり」なので間接覆髄法はすぐにはできません。一度、歯髄のリトマス試験紙、こと、酸化亜鉛ユージノールセメントなどを詰めて、「歯髄鎮静消炎療法」を行い、歯髄炎が「一部性」なのか「全部性」なのかを試験することが多いです。 自発痛あるのにそのまま薬詰めて最終処置したら、全部性歯髄炎、化膿性歯髄炎→根尖性歯周炎などが多く、病状が悪化していくので、抜髄を行う必要があります。何より患者の痛みを放置するのは、医療人としてありえないことなんですが、文章で書かれているとリアリティが薄いので、そのあたりの感覚が希薄になりがちですよね。

今回は以上です。

 

 

 

歯内療法おすすめの本

新歯内療法学サイドリーダー 学建書院 2013 ★★★

サイドリーダーでは、この歯内療法の本が群を抜いておすすめです。イラストが丁寧にかかれていて、教科書の文章読んで頭のなかでイメージするしかなったような処置の様子が、ああ!こんな風にするんだ!という箇所が多く、勉強になりました。3,4年生でこれから学ぶ人も、6年になっても歯内療法が苦手!という人も、まずはこの本をみておくと入り口からスムーズに入れて、その後の知識をきちんと積み上げていけそうな気がします。

 

歯内療法のケースアセスメントと臨床根管形態からみる・ストラテジーを選ぶ 興地 隆史 (著) 医歯薬出版  2013  ★★★

エンド界のドン!といえば、この方、興地(おきじ)先生です。国家試験の問題作成もされていますし、学会的にもかなりの重鎮らしく、うちの先生は「日本の歯内療法は興地先生を中心に回っている」ともいっていたぐらいです。。。

エンドは、臨床系の専門書を開くと本当に有象無象の世界というか、何が正しいのかさっぱりわからなくなってしまいます。流派が乱立しているというか、これといった大正解的な方法がないのが歯内療法の特徴でもあると思います。

しかし、国家試験は違います。教科書に書いてあることが正解となります。医歯薬出版の教科書が神で、そこに載っていることが正解とされます。興地先生はこの教科書ももちろん、教科書系の本では必ず上の方に名前があります。

その興地先生の単著とあれば、その重要さ具合がわかると思います。いわゆる新問といわれるような新しい傾向のものは、このような臨床系の専門書をカバーしておくのがその対策としては妥当に思われます。Ni-Tiだったり、根管洗浄だったり(昔はスタンダードだったNaOClとH2O2の交互洗浄ではなく、今は、、、)そのあたりの臨床的な手順や道具、方法もこの本のものをイメージできるようになれば国試の臨床実地問題で迷った時に正しい方角に自然と足が伸びるようになるんだろうな、と思います。

 

エンドドンティクス 第4版 興地 隆史 ほか 永末書店 2015 ★★☆

教科書系では一番この本が新しく写真が豊富でわかりやすいです。歯内療法の基礎的なことから、Ni-Tiについての記述もわかりやすかったです。版も新しいですし、この方法は古いんじゃ、、、みたいなところがなかったです。医歯薬出版の教科書でわからないことでもこちらを開いて納得することが何度もあり。網羅的に短時間で勉強終わらせるには、こちらも合わせて使えるとスムーズだなと感じました。

 

歯内治療学 第4版 医歯薬出版 2012 ★★☆

国家試験のバイブル、医歯薬出版の教科書シリーズです。もしまだ買ってなかったり持っていない場合は、かならず国家試験の勉強を本格的に始める前に買っておきましょう。その時の最新版を。

「過去問で間違った」「この用語がわからない」そんなときはまずこの本を開いて、前後の文脈含めて読むことをおすすめします。実践の解説よんでるだけでは知識が断片的になってしまいます。文脈や意味を掴みながら系統的に勉強していきましょう。

 
 
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